DVD『お伊勢さん』を通して伊勢神宮の行事や歴史を紹介しています。
伊勢神宮の社殿は式年遷宮を重ねて作り替えられてきました。その結果世界にもまれな古い形をした新しい建物が現存しています。
このDVDでは建築家の髙松伸さんが伊勢と出雲を訪ね、建築の世界における古代神宮建築の意義を探ります。
また法隆寺の宮大工小川三夫さんと伊勢神宮の宮大工宮間熊男さんが、伊勢神宮の建築様式について奈良の仏教建築と比較考察しています。
建築家にとっての伊勢神宮
高松伸(1948- )
島根県出身の建築家、出雲大社は小学生の頃の遊び場でした。
夕陽が沈んで
出雲大社の本殿が真っ黒な存在になって押し寄せてきた
見たこともない重々しい巨大さに打たれました
あれが建築との最初の出会いでした
髙松伸
高松さんにとって伊勢神宮の社殿は建築の原点です。建築の勉強は模写から始まりました。
伊勢神宮や出雲大社の図面模写を繰り返し、建築方法や歴史的な意味を手を動かしながら身体にたたき込むことが建築家になる第一歩
高松さんは伊勢神宮の社殿を「何も足せない、何も引けない、完璧なデザイン」と評しています。
ブルーノ・タウト(1880-1938)
伊勢神宮の建築の美しさを日本人に気づかせてくれた建築家です。伊勢神宮外宮正殿を特に称賛しました。
天から降ってきたようなこの建築は、世界建築の王座である
パルテノン神殿に匹敵する
ブルーノ・タウト
ドイツ生まれですが1933年から3年半、ナチスの迫害を逃れるため日本に亡命しました。伊勢神宮の他に桂離宮と白川郷のことを「最高の建築である」と評しています。
古代の建築様式
唯一神明造
伊勢神宮正宮の建築様式です。古代の高床式の穀倉が発展しました。
総檜造で装飾や塗料を施さない素木造
丸柱を地面に直接埋める掘立柱
切妻の萱葺の屋根を貫く千木と鰹木
両側の2本の柱が棟を支える柱棟持柱
屋根の傾斜面に出入口がある平入り
簡素で直線的な姿は素木の美しさを引き立てます。
大社造
出雲大社に代表される建築様式です。祭祀に使われた宮殿が社殿に発展しました。
内部は約11mの正方形
中央に直径1mを超える心御柱
田の字に配置された9本の柱
檜皮葺の屋根の妻側にある出入口
2013年(平成25年)5月に出雲大社では60年ぶりに本殿遷座祭が行われました。本殿の大屋根は5年の歳月をかけて吹き替えました。
住吉造
住吉大社に代表される建築様式で大嘗祭の建物と近似しています。
直線的な外観で内部は内陣と外陣の二室
切妻造り、妻入りの檜皮葺屋根
千木と鰹木を置いた棟
社殿正面の板扉と低い床
神明造や大社造と共に神社建築最古の様式です。住吉大社の本殿は2010年(平成20年)に式年遷宮されました。
法隆寺と伊勢神宮の宮大工
二人の宮大工が伊勢神宮の建築様式を奈良の仏教建築と比較しながら考察します。
小川三夫
法隆寺宮大工、法輪寺三重塔や薬師寺西塔、金堂の再建を手がけました。
宮間熊男
伊勢神宮宮大工、「小工」として3度の式年遷宮を経験、平成5年の式年遷宮では総棟梁を務めています。
仏教建築
長い年月に耐えるために礎石の上に建物を建て、土壁や瓦を使用した大陸伝来の技術が用いられています。
伊勢神宮
日本古来の建築です。原点は直線
寺は400年で建て替えるため建物から建築技術を学びます。一方20年ごとに建て替える伊勢神宮では人から人へ技術が伝わります。
二人の宮大工は「伊勢神宮と法隆寺に共通点はない」と語っています。
自分もああいう木を削ってみたい
法隆寺宮大工 小川三夫
真っ白な素木、それは自慢できる
伊勢神宮宮大工 宮間熊男
式年遷宮の造営に関わるお祭
式年遷宮にむけて8年間に33の遷宮諸祭が行われました。このうち7割は建築に関わるお祭です。
山口祭
2005年(平成17年)5月、遷宮造営の最初に行なわれるお祭です。新社殿の用材を切り出す前山の神に安全と立入りの許可を祈願します。
忌鍬と忌鎌の儀式です。物忌の童女が渡した忌鍬を用いて神職が山を鎮めます。
第62回式年遷宮は材木を伊勢では伐採しませんが、古例に従い内宮は神路山、外宮は高倉山で山口祭は行われました。
御杣始祭
2005年(平成17年)6月、御神体を納める器をつくる御神木を伐採するお祭りです。長野県木曽谷の国有林で行われました。
御神木に選ばれる木は育った場所や周囲の環境、材質、大きさに厳しい条件があります。今回は木曽谷上松町の樹齢約300年の2本の檜が選ばれました。
御用材伐採式
2005年(平成17年)6月、岐阜県中津川市で御用材が伐採されました。
御樋代木奉曳式
2005年(平成17年)6月、伐採した御神木を内宮と外宮に迎えます。内宮では6月9日、外宮は6月10日に行われました。御神木は内宮では五十鈴川を遡って神域に曳きあげられます。外宮では北御門から神域に曳きこまれました。
鎮地祭
2008年(平成20年)4月、新しい社殿造営地で安全を祈願する儀式です。物忌の童女が鎌をふりあげて草刈り初めの儀式を行いました。
立柱祭
2012年(平成24年)3月、新しい社殿の御柱を立てるお祭りで新殿造営の最初に行われます。御柱の木口を小工が木槌で打ち固めて新殿の安泰を祈ります。内宮は2012年(平成24年)3月4日、外宮は3月6日に行われました。
上棟祭
2012年(平成24年)3月、新正殿に棟木をあげました。建物の守り神である屋船大神を祀り、正殿の安泰を祈願します。
映像では新正殿の屋根の棟木から2本の白い布綱が垂れ下げられています。この布綱を屋根の棟木と門の予定地に立てた柱に結んで正殿までの距離を測ります。
布綱を神職が手にとると「千歳棟」というかけ声に屋根の上の小工が「オー」と応じながら木槌で棟木を打ち固めます。「万歳棟」「オー」、「曳曳億棟」「オー」かけ声のたびに屋根上の小工が木槌を打ちます。
檐付祭
2012年(平成24年)5月、新殿の御屋根に御萱を葺き始めるお祭りです。
甍祭
2012年(平成24年)7月、新殿御屋根の葺き納めのお祭です。屋根に飾り金具を取り付け「御金物を堅固に護りたまえ」と祈りを捧げます。
後鎮祭
2013年(平成25年)10月、遷御の儀の直前に行われました。正殿床下に天平瓮を奉居して社殿の竣工を祝います。
遷宮によって新たな活力を身につける
式年遷宮によって伊勢神宮では日本古来の建築が受け継がれてきました。建物が老朽化しても終わりにせず、社殿を建て直して生命力を甦らせます。
なにごとのおはしますかは知らねども
かたじけなさに涙こぼるる
西行
遷宮という永遠の循環によって日本人は常に新しさを感じ、新たな活力を身につけ続けます。