『THE BASEBALL 100』という本を紹介します。
Joe Posnanski(2021),The Baseball 100, Avid Reader Press
アメリカの著名な野球ライターであるジョー・ポズナンスキー(Joe Posnanski, 1967 – )による野球史上偉大な100人の選手のリストアップです。
野球好きには楽しい本ですが、残念なことに日本語版は出版されていません。
THE BASEBALL 100
800ページにおよぶ大作、しかし目次はありません。
選出された選手はランキング100から順に並んでいるだけ、最初に登場するのは「No.100 イチロー」です。
No.100 イチロー(Ichiro Suzuki)
日本プロ野球(NPB)とメジャーリーグ(MLB)で28シーズン
通算3604試合に出場
4367本のヒットを打ちました。
- NPBでは首位打者7回、打点王1回、盗塁王1回、最多安打5回
- 2001年からはMLBでプレー、MLBでも首位打者2回、盗塁王1回
- 2004年には262安打でMLBのシーズン最多安打
- 2016年にはMLB通算で3000安打、500盗塁を樹立
ポズナンスキーはシングルヒットに焦点を当ててイチローを語ります。
- シングルヒットで10年連続リーグトップを記録
- 1シーズン200本のシングルヒットを達成した唯一の選手
日本ではイチローの良いニュースばかりですが、アメリカではイチローのプレーに賛否があったようです。
また記録だけでなく、ポズナンスキーはイチローがニグロリークの選手の逝去に際して敬意を評したことや多額の寄付をしたこもを教えてくれます。
ポズナンスキーがイチローをどのように評価しているのか、ぜひご覧になってください。
ユニークな存在
ポズナンスキーは「ユニーク」という言葉でイチローを評価します。
「ユニーク」という言葉の意味は「特別」、イチローは他の選手とは一線を画す存在なのです。
イチローのプレースタイルや精神性は他に類を見ません。
ベーブ・ルースのフェンス超えを狙う打撃スタイルは当初はユニークでした。しかし、その後ルー・ゲーリッグやジミー・フォックス、ロジャー・マリス、バリー・ボンズが同じスタイルを確立しました。
「ユニークであることは、野球において想像しうる最高の境地である
イチローこそ、彼のみが、真のユニークな存在であり、イチローのような選手は過去にも、そして今後も現れないでしょう」とポズナンスキーは語っています。
数字では評価できない
彼が打席や守備、走塁で見せる華麗な姿は、数字で表せない美しいものです。
「イチローのプレーは単なる統計データでは魅力を表せない」とポズナンスキーは述べています。
- 四球をあまり選ばないため出塁率が低い
- ホームランや三塁打などの長打が少ない
彼のメジャーグリーグのキャリアにおける OPS+ 107、WAR < 60、生涯長打率.402という数字は平凡な記録です。
統計的な数字を根拠に、イチローを平均的な選手と見なす人たちがいます。このためにイチローは「史上最高のリスト」に選ばれないことが多いのです。
しかし、数字だけで彼の偉大さは判断できません。彼のプレーを見た人は、その真価を理解できるはずです。
統計の数字でイチローの独特なプレースタイルは捉えきれません。
アメリカでの評価
イチローは日本のパシフィックリーグで輝かしい成績を収めました。
- 20歳で打率.385の新記録を樹立
- その後7年連続で首位打者を獲得
- 毎年ゴールドグラブ賞を受賞
このような実績を持つイチローのメジャーリーグへの移籍は、日本人野手として大いなる挑戦でした。
イチローがメジャーリーグに挑戦した当初、多くの人たちが彼の成功を疑いました。
- 5フィート9インチ(約175cm)の「華奢な体つき」
- メジャーリーグの速球に対応できない
- 162試合のメジャーリーグのシーズンを乗り切れない
スプリングトレーニング中、多くのメディアは疑問の声をあげました。マリナーズ監督のルー・ピニエラでさえ、イチローの実力に確信を持てませんでした。
みんな、間違っていました
しかしイチローはメジャーリーグでも活躍しました。
みんな間違っていたのです。
イチローは日本での活躍を再現しました。
- 打率は .350でリーグトップ
- ヒット数と盗塁数もリーグ最多
- ゴールドグラブ賞を受賞
新人王とMVPに同時に選ばれた野球史上2人目の選手となりました。
ピート・ローズより凄いのか?
ローズは、イチローは自分の記録を破れないと主張しています。
しかし、もしイチローが20歳でメジャーリーグに挑戦していたら、ヒット数は減ることはなく、さらに増えていたはずです。
「イチローはピート・ローズのヒット記録を破っていた」とポズナンスキーは確信しています。
彼を100位にランクインさせたことで、ポズナンスキーは二つの異なるグループを怒らせてしまいました。
- イチローのパワー不足
- 通算3,000本安打以上で360本台の二塁打は最低記録
- .355という平凡な出塁率
- 偉大とは言えないWAR
この数字を理由に、彼は「史上最高の100人に選ばれる資格がない」と考える人たちがいます。
一方、3,000本もヒットを打ち、最高の走塁技術をもち、野球史上最高の守備力を持つイチローのプレーを見て感嘆した人たちは「彼よりも優れた選手が99人もいるはずがない?」と文句を言うのです。
イチローの人間性
イチローはプレーだけでなく、人間性も評価されるべきです。
偉大なニグロリーグの選手であったバック・オニールの死後、イチローは彼に敬意を表して、人知れず大きな花束を送りました。また、ニグロリーグ・ベースボール・ミュージアムに多額の寄付をしています。
このような行動は、イチローが他の選手とは異なる視点を持ち、深い敬意を持って野球と関わってきたことを示しています。人種差別を抱えるアメリカで、イチローはどのような経験をして、なぜこのような考えを持つようになったのか、イチロー自身の考えをぜひ聞きてみたいです。
まとめ
イチローはメジャーリーグにおいて他に類を見ないユニークな選手でした。統計の数字で示される業績以上に、イチローのプレースタイルや精神性は尊いものです。
イチローの魅力は、日本とアメリカの野球界において永遠に語り継がれます。ジョー・ポズナンスキー『THE BASEBALL 100』はイチローのユニークさ再認識させてくれる素晴らしい本でした。