「名声はいらない」マーク・トラウトの素顔、No.27 Mike Trout、Joe Posnanski『THE BASEBALL 100』#5

少し太り気味の男の子が野球をしています。彼は赤いユニフォームを着ています。帽子とストッキングも赤色です。背番号は27です。ニコニコ笑っていて、とても楽しそうに野球をしています。

Joe Posnanski『THE BASEBALL 100』

アメリカの著名な野球ライタージョー・ポズナンスキー(Joe Posnanski, 1967 – )が、野球史上偉大な100人を選出

この本にはランクを示す目次がありません。ページをめくりながら気になる選手が見つかったら読む、そんな感じの本です。

No.27は「Mike Trout」、現役選手最高のランク、偉大な選手たちが彼より下に並びます。

No.28 Randy Johnson(ランディー・ジョンソン,1963年9月10日 – )
No.30 Johny Bench(ジョン・リー・ベンチ, 1947年12月7日 – )
No.31 Greg Maddux(グレッグ・マダックス, 1966年4月14日 – )
No.34 Cy Young(サイ”・ヤング, 1867年3月29日 – 1955年11月4日)

ポズナンスキーによると「トラウトの真の魅力は卓越した技術だけでなく、彼の謙虚で素直な人間性」一方で、その素晴らしい人間性ゆえに、成績が適切に評価されないという矛盾を抱えています。

私のメジャーリーグ体験は大谷翔平で始まりました。そのためトラウトの認識は以下のようなものでした。

大谷選手のチームメイト
すごい選手らしい
ケガのためフルシーズン出場しない
しかし試合に出でると活躍する

なぜトラウトをポズナンスキーが高く評価するのか、No.27 Mike Trout から引用してお伝えします。

マイク・トラウト(Mike Trout;1981年8月7日 -)

2009年のドラフト1巡目(全体25位)にエンゼルスが指名、2011年、19歳11カ月でメジャーリーグデビュー

この記事が書かれたときトラウトは29歳、メジャーリーグで8回のフルシーズンを過ごした後です。この時トラウトはすでに伝説的な選手たちに匹敵する成績をあげていました。

史上屈指の打撃成績

2020年、この時点でトラウトはメジャーリーグでフルシーズン活躍した全ての年で、少なくとも4つの主要な統計部門でリーグ最高の成績を収めていました。

2012年:得点、盗塁、OPS+、両バージョンのWARでリーグ1位
2013年:得点、四球、両バージョンのWARでリーグ1位
2014年:得点、打点、塁打、FanGraphs WARでリーグ1位
2015年:長打率、OPS、OPS+、両バージョンのWARでリーグ1位
2016年:得点、四球、出塁率、OPS+、両バージョンのWARでリーグ1位
2017年:出塁率、長打率、OPS、OPS+でリーグ1位
2018年:四球、出塁率、OPS、OPS+でリーグ1位
2019年:出塁率、長打率、OPS、OPS+でリーグ1位

2018年は大谷翔平がエンゼルスに入団した年、2020年は新型コロナウイルス感染のためフルシーズンを開催できませんでした。

これらの数値で首位に立つことは、野球史に名を残す偉大な選手たちでも稀なこと、この他にも一般的でない統計指標で優れた成績を収めています。

敬遠四球:リーグ1位3回
勝利確定貢献率(Win Probability Added:WPA):リーグ1位5回
得点創出機会(Runs Created:RC):リーグ1位4回
出塁数:リーグ1位4回
センターの守備率:2015年と2018年にエラーなしで1位
調整打撃勝利査定(Adjusted Batting Wins):リーグ1位5回

ブラックインクシステム(Black Ink system)

選手が主要な統計部門でリーグトップになった回数を測定するシステム、選手の生涯成績を評価するための優れた指標です。トラウトのブラックインクスコアは33、これは殿堂入りした選手の平均値より高い値です。

ウィリー・リー・マッコビー(Willie Lee McCovey, 1938年1月10日 – 2018年10月31日)
アーニー・バンクス(Ernest Banks, 1931年1月31日 – 2015年1月23日)
ケン・グリフィー・ジュニア(Ken Griffey Jr., 1969年11月21日 – )
ロベルト・クレメンテ(Roberto Clemente, 1934年8月18日 – 1972年12月31日)

カル・リプケン・ジュニア(Cal Ripken Jr., 1960年8月24日 – )

多くの伝説的な選手たちの成績を、メジャー8年目のトラウトがすでに上回っているのです。

ポズナンスキーは「野球史上、トラウトと肩を並べられることができる選手は偉大な伝説的選手だけである」と語り、その選手たちの名前をあげています。

タイ・カッブ(Tyrus Raymond “Ty” Cobb, 1886年12月18日 – 1961年7月17日)
ミッキー・マントル(Mickey Charles Mantle, 1931年10月20日 – 1995年8月13日)
ヘンク・アーロン(Henry Louis Aaron、1934年2月5日 – 2021年1月22日)
ベーブ” ・ルース(George Herman “Babe” Ruth, Jr., 1895年2月6日 – 1948年8月16日)

WARの記録でトラウトはすでにディマジオやピート・ローズ、ノーラン・ライアン、ペドロ・マルチネスらを抜いて、歴代最高の記録に迫っています。今のパフォーマンスを10年以上続ければ、ベーブ・ルースに並ぶかもしれません。

WAR(Wins Above Replacement)とは、打撃と走塁、守備、投球を総合的に評価して、チームの勝利に対する選手の貢献度を表す指標です。代替選手との対比で表されるため、ある選手のWARが10.0であればその選手の代わりに代替水準の選手を出場させるとチームは勝利を10勝失うという意味をもちます。代替可能選手とは、「平均以下(below average)の実力で、容易に獲得できる(easily obtainable)選手」、すなわち3Aから昇格してきたレベルの選手を指しています。

なぜ彼はもっと注目を浴びないのか

なぜ彼はもっと注目を浴びないのか
なぜ彼はもっと有名にならないのか
なぜ人々は彼の凄さを理解できないのか

トラウトの記事でよく目にする疑問です。ポズナンスキーは、この種の話題に違和感を感じています。

「トラウトはいつも我々の期待に応える活躍をしてくれる。彼の偉業が当たり前になってしまっている。そのため、私たちは驚きの感覚が鈍くなっているのではないか」とポズナンスキーは考えています。

ポズナンスキーは繰り返し強調します。「トラウトの歴史的な偉業に対してみんなが免疫を身につけているのではないか。
彼は同時代の選手ではなく、マントルやメイズ、アーロン、グリフィー、コブら球史に名を残す選手たちと比べるべき存在であることを見落とさないでください」

父、ジェフ・トラウトの挫折と決断

トラウトの父ジェフ(Jeff Trout)は優れた野球選手でした。身長は5フィート8インチ(約173cm)でしたが、ツインズは彼のバッティングを評価してドラフト5巡目で指名します。しかしジェフはメジャーリーガーになれませんでした。

体格の他にもケガや守備に関するネガティブな評価、ツインズとの確執、ジムが広い視野を持っていたことも災いしました。

彼は野球が好きでしたが、野球は人生の全ではありません。彼は自分の考えを貫きました。野球を引退し、父親、教師、そしてコーチとしての人生に専念します。

4年後、マイクが生まれました。

Ve la pelota, pegále a la pelota.(ボールを見る、ボールを打つ)

父ジェフと息子のマイク違いは何でしょう。才能?もちろんです。マイクは遥かに才能に恵まれています。しかし、もっと大切なことがあります。「自信です、マイクは疑いません」とジェフは言います。

トラウトが打席で頻繁にタイムをとるのに気づいていますか。この時トラウトは頭の中に浮かんだ考えを取り除いているのです。考えの内容は重要でありません。トラウトが求めるものは「無」そのためにタイムを取り、トラウトはすべてを遮断します。

「リセットモード」と彼は呼びます。澄んだ心でバッターボックスに戻る、そしてボールを見て、ボールを打つ。彼はけっして迷いません。「私の哲学はシンプル」とトラウトは語っています。トラウトは心をリセットして、再び打席に戻るだけなのです。

名声を望まないスーパースター

トラウトは深夜のトークショーに出演しません。家族と一緒に野球を観戦するのが好きなのです。「マイク・トラウト 騒動」と検索欄に入力しても、Googleでヒットするのは1件だけです。

現在のアメリカでは「自分のブランドを大きくすることに消極的である」ことが物議を引き起こします。そのためトラウト(Trout)も批判されるのです。

「トラウトは退屈だと言われます」しかしトラウトをよく見てください。トラウトは小さな町で育ち、毎日笑顔で野球場にやって来る男の子でした。12歳の頃から抱いてきた野球への情熱を今も持ち続けています。トラウトは皆にきちんとサインをしてくれます。

彼はまだ29歳、野球史上最高の選手になる途上にいるのです。

ポズナンスキーは読者に問います。「これで、まだ十分でないのですか、問題があると思うのなら、それはあなた自身のどこかに問題があるのではありませんか」

ポズナンスキーは、ジョー・ディマジオ(Joseph Paul DiMaggio, 1914 – 1999)を「56」にランクしました。これは彼の伝説的な連続試合安打記録である「56試合」に由来します。

マイク・トラウトの背番号は「27」、ポズナンスキーはトラウトのファンなのかもしれませんね。

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